大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 平成9年(わ)42号 判決 1997年5月23日

本籍及び住居

新潟県北魚沼郡小出町大字中原三七七番地

会社員

星惠一

昭和二五年二月二六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小林健司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、新潟県北魚沼郡小出町大字中原三七七番地において「星造園」の名称で造園工事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、星百合子と共謀の上、実際よりも小額な適宜の金額で申告を行い、よって得た資金で株式投資をする等の方法により所得を秘匿した上

第一  平成四年分の実際総所得金額が六九一五万一六一〇円で、これに対する所得税額が二九六〇万六〇〇〇円であったにもかかわらず、平成五年三月一二日ころ、新潟県小千谷市大字生乙七二五番地の三所在の所轄小千谷税務署において、同税務署長に対し、同四年分の総所得金額が四〇三万二一〇七円で、これに対する所得税額が一八万九三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同年分の正規の所得税額との差額二九四一万六七〇〇円を免れ

第二  平成五年分の実際総所得金額が七三五七万八五八六円で、これに対する所得税額が三一三四万七五〇〇円であったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記小千谷税務署において、同税務署長に対し、同五年分の総所得金額が四一九万六四八二円で、これに対する所得税額が一一万五九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同年分の正規の所得税額との差額三一二三万一六〇〇円を免れ

第三  平成六年分の実際総所得金額が四五〇六万七一四九円で、これに対する所得税額が一五〇六万二〇〇〇円であったにもかかわらず、平成七年三月一五日、前記小千谷税務署において、同税務署に対し、同六年分の総所得金額が四二七万三五二六円で、これに対する所得税額が九万四五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同年分の正規の所得税額との差額一四九六万七五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

〔 〕内の符号は検察官請求証拠番号を示す。

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(七通)

一  星百合子(五通)、上村一也、冨沢洋一及び宮島岳彦の検察官に対する供述調書

一  阿部久美子及び佐藤長太郎の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官の作成の告発書、売上調査書、雑収入調査書、期首棚卸調査書、仕入調査書、期末棚卸調査書、給料賃金調査書、外注工賃調査書、減価償却費調査書、利子割引料調査書、租税公課調査書、荷造運賃調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、車両費調査書、諸会費調査書、賃借料調査書、雑費調査書、預貯金調査書、有価証券調査書、査察官報告書(三通)

一  小千谷税務署長作成の回答書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書〔甲2〕

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書〔甲3〕

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書〔甲4〕

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも情状により所得税法二三八条二項を適用の上、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一ないし判示第三の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、造園業を営んでいた被告人が、できるだけ多く自由に使える金員が欲しかったことや資産を増やし経営を安定させたいと考えたことから、平成四年分から平成六年分までの合計一億七五二九万円余の所得を秘匿し、所得税七五六一万五八〇〇円を免れたというものであり、その動機に斟酌すべきものはなく、その方法も共犯者の妻に命じて売上除外や架空経費の計上等を行い、実際より過少の確定申告したというものであり、脱税額も多額で、ほ脱も高率であり、その犯行自体悪質であると言わなければならないし、常習的犯行とも考えられ、遵法精神が鈍麻していると認められること、被告人の犯行が税負担の公平を害し、善良な国民の納税意欲を阻害するもので、租税制度の基本である申告納税制度に悪影響を及ぼすものであることなどに照らすと被告人の形責を軽視することはできないが、被告人が当公判廷において反省していることが認められること、修正申告を行い、ほ脱した税金に関しては町県民税の延滞税を除いては納付済であり、右延滞税についても納付することを誓っていること、これまでに前科がなく、善良な町民として地域社会に貢献してきた面も認められること、その他、被告人の年齢、職業、家族の関係等本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、被告人を主文掲記の刑に処し、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのを相当と思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年及び罰金二五〇〇万円)

(裁判官 姉川博之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例